鯉のぼり
幼い頃、桜が散る頃になるとこいのぼりが宙を舞っていた。それは何だかあどけない慶びの想い出とセットでした。骨董市などで見かけると、胸がキュンとなるようなノスタルジーを感じて、用途も無くついつい買ってしまっていました。
モキチトラットリア(香川店以下:トラ)が4月中旬のオープンだったので端午の節句に近いこともあり、ぶら下げてみることにしました。何だかとってもいい。こいのぼりがインテリアとして使えることを発見した瞬間でした。
大空を舞っていた大きな鯉たちは、大抵子どもの成長とともに活躍の場を失ってゆく。かろうじて残されていても飾るチャンスはなかなか巡って来ない。けれどインテリアとして見直してみたら、こんなにも愛おしいアイテムはなかなか無いのです。
もちろん飾る時のTPOはあります。それを考えることが古道具を愉しむポイントでもあるのです。トラでは妙にマッチしたこいのぼりも、フーズガーデン(茅ヶ崎駅前店以下:フーズ)では何だか合わない…ということがありました。考えてみると、フーズは梁が細くスタイリッシュなデザインなのでこいのぼりそのものではパンチがありすぎる。対してトラは梁がパワフルなのでそのダイナミズムとマッチングするのです。そこで、フーズでは威圧感のあるこいのぼりの目を見えないように、胴体だけにして額装して飾ってみました。そうしたら、こいのぼりの鱗はまるで北欧デザインのマリメッコのようではありませんか。こいのぼりをテキスタイルデザインとして再発見した瞬間です。
縁起物ですから、それを飾ること自体にも幸福や繁栄への祈りも込められています。そこでトラでは上に昇ってゆくように、フーズでは右肩上がりの位置に設置してあります。そうした配置の妙を試行錯誤することも古道具の愉しみ方のひとつでしょう。
その意匠性は、世界的にも認知され、海外の邸宅にインテリアとして飾られているのを雑誌で見ることもあります。日本の風土から生まれ子どもの健やかな成長を祈る親の願いが込められているこいのぼり。それは、成長とともに役目を失うものではなく、視点を変えるとその卓越したデザイン性で私たちを楽しませるものとして、再び泳ぎ出すのです。 高度経済成長期からはプリントが主流になってしまい、その意匠性も薄くなってしまいましたが、熊澤酒造のこいのぼりは職人による手描きのものです。フーズでは近づいて観ることができるので是非その意匠を堪能していただきたいと思います。