ハーベストホップ -自社畑で採れたホップのビール-
梅雨とは思えない、6月末の朝。酒造から車で5分ほどの自然豊かな堤の森には、ブラウマイスターはじめ各部門から有志30名ほどが集まり賑やかな様子。今日は待ちに待ったホップの収穫日です。今日摘んだホップはあと数時間後には、オクトーバーフェストでお披露目するハーベストホップの原料としてタンクの中へ!生ホップを当日仕込みに使用するのは私達にとっても初めてで、業界的にも珍しいビールと言えるでしょう。
酒造のパーキングの片隅で始めたホップ栽培。手狭になった3年前に酒造近くのここ堤と芹沢の土地を借り受け移植しました。なかなか思うようには収穫量が上がらない中、4年目の今年は収穫量も昨年比約1.5倍となり、ハーベストホップ第二弾として今年も商品化することになったのです!その収穫から仕込みまでを密着取材。知れば知るほど奥が深いホップの世界を覗いてみましょう!
生ホップは時間との戦い
ブラウマイスター筒井の掛け声とともに始まったホップの収穫。5メートルはあろうかという支柱に絡みついて成長したツルから、5センチほどに成長した実を次々と採っていきます。各部門から予想以上に集まったビール好き達の手分け作業で無事に堤と芦沢2ヶ所の収穫は終わり、いっぱいになったホップの籠がここそこに。その青々しく爽やかな香りが畑に充満し、思わず「いい香りっ!」と歓声が上がります。生ホップは時間との戦い、これからすぐに酒造の庭で次なる作業が待っています。
ホップの役割は、ビールに苦味や独特の香り付けをし、雑菌の繁殖を抑えることで保存性を高めることにあります。ビールの独特の香りはルプリンと呼ばれるホップの中心にある黄色い球体の粒から出るのですが、その香りを最大限に引き出すために手作業でホップを割りほぐしルプリンが麦汁に浸りやすいようにして漬け込みます。
麦汁は通常より低めの80度に設定。そこに漬け込むことで苦味よりも香りを引き出すのがポイントです。それはまるで適温でお茶を淹れると苦味よりも旨味や香りが引き立つのに似ています。ブラウマイスターが理想とする青々しい爽やかさとグレープフルーツのような柑橘香の綺麗なアロマを求めて、作業は続きます。
中庭はまるで農夫達の聖域
収穫から戻ると、中庭のメタセコイアの木の下でホップをほぐす作業がすぐに行われます。この日はレストランの定休日とあって敷地内にお客様はまばらで、深い緑の中で黙々と作業を続けるテーブル、楽しそうにお喋りしながら手を動かすピクニック気分のテーブルなど様々。その様子は大地からの贈り物を丁寧に加工して商品として届ける大きな循環の中に介在する農夫達の集まりのよう。新いチャレンジをしながらも人間の原点へ回帰している懐かしい風景にも見えるのでした。これから毎年この時期の中庭の風物詩となりそうです。
ほぐしたホップにはすぐさま二酸化炭素が充填され、酸化を可能な限り防ぎます。こうしてホップはフレッシュなまま目標時間内に作業は終わり、次はいよいよ麦汁に漬け込みます。
漬け込み
収穫から3時間後。いよいよ漬け込みの作業です。ドライホップタンクという小さなタンクに収穫に参加した希望者達で生ホップを投入します。そこに煮沸タンクから一部の麦汁を加えます。温度は設定通りの80度!こうして、苦味ではなく青々しさとフレッシュな香りを移していきます。自分たちで今朝収穫したホップがタンクに投入されビールになっていくライブ感を体験して、皆の士気も麦汁の湯気と共に一気に上がっていくのでした。この後ワールプールに移して攪拌・沈殿させ、上澄み液を冷却し酵母を入れて下面発酵させていきます。
生ホップはロマンの世界!
私たちが育てているホップはカスケードという種類です。ホップは200種類以上あると言われ、苦味をつけるビターホップや、香りをつけるアロマホップなどその個性は様々です。カスケードはこのアロマホップの代表格で主な原産地はアメリカ。グレープフルーツのような華やかな香りが特徴です。
ビールの味わいを左右するホップ。生ホップを使うことは、ペレット化されたホップを使う安定したビール造りよりも何倍もの労力を伴います。それは、生ホップを使うことは量や加工状態、漬け込む温度などにより全く違った味わいになる、ある意味ケミストリーの世界だからです。それでも作り手達はその労力にも勝るライブ感のあるビール、一期一会のビールを求めてチャレンジしていきます。今年のオクトーバーフェストではブラウマイスター達の熱量が詰まったハーベストホップを是非味わってください!彼らの”ロマンの世界”がそこにあります。