ちがさき・もあな保育園特集
朝8時過ぎ、酒樽の蓋だった半円形の木の扉の門をくぐり、裏山の森にある保育園に元気に子供達がやってきます。ちがさき・もあな保育園は、熊澤酒造と関連会社ショコー産業の社員の子供と、希望する地域のお子さんが通う企業主導型保育の小さな保育園です。ここを作るきっかけとなったのは、かつて社内で長年働いている女性社員が、保育園が決まらないと働き続けられないと申し出たことがあったからです。しかも自治体に申し込んでも希望の保育園に通えるかはわからないという事実を知り、これはこれからも社内で増えていくであろう問題だと感じていました。
実際に保育園開設に乗り出すことになった時、原風景となったのはかつて見たアメリカのパタゴニア本社の光景でした。そこは建物の中心に託児所があり、ショップやオフィスがそれを囲むようにありました。大人は子供の様子を伺える環境で仕事をし、子供も大人が働く姿を肌で感じながら安心して成長していく。それはとても理にかなった理想的な姿に見えました。
自分達に翻った時、子供が親の働く姿をすぐ近くに感じながら森の中で伸び伸びと成長し、ここが安心できる心地良い場所になれば、彼らのアイデンティティにも大きな影響を及ぼすことになるでしょう。そして将来を考えた時、この場所に帰ってきて仕事がしたいと思ってくれたなら本望、こんなに嬉しいことはありません!そしてそれは企業を長く続けていく上でもとても大切なことです。
そんな中、偶然の出会いにも恵まれました。大磯農園を主宰し、暮らしの教室を共に運営する原さんに誘われて無農薬のお茶摘みイベントに参加した時のことです。ひたすらに目の前のお茶を摘むこのイベントで、蔵元茂吉ともあなキッズ自然楽校を経営する関山さんは、多数の参加者の中でお隣同士。ほぼ初対面ながら自然の中での数時間でお互いの子育てや教育への考え方にすっかり意気投合し、かねてから考えていた保育園の運営を依頼することに繋がったのです。
すでに関山さんは横浜や大磯でデンマーク式の”森のようちえん”いう子供の主体性を育むスタイルの保育園や学童を運営していました。運営を依頼した際、熊澤酒造の敷地なら、リアルな森や近隣の自然の中で子供を育てられること、また、企業主導型保育は熊澤酒造関連の社員の子供を第一優先に、一般の方とも直接契約できるので、園の特色を生かした運営がしやすく非常に魅力的だということで、もあな保育園と熊澤酒造はタッグを組むことになりました。
保育園開設にあたり、場所は裏山のテニスクラブにある使われなくなったプールの中にはめ込むように園舎を建てました。目の前は森、探検するには困らない立地です!さあ、好きなように沢山遊んで自然と仲良くなってその厳しさも学んでおいで。それが君たちの生きる力、羽ばたく羽根になるのだから!
日々の行事
子供が主役のもあな保育園。毎朝話し合いで、今日のお出かけ場所が決まります。どこに行っても、何を見ても子供にとっては冒険と発見の連続!暑い日は川でザリガニ釣りやヤゴ、エビ釣り。雨の日だってラッキーデー!台風でない限りは元気にお出かけし、迷わずズブズブと水たまりに入ります。お友達同士コップで雨水シャワーのかけ合いは日常茶飯事。ある雨の日には、裏山を下りて酒造の敷地にやって来ました。石畳はピチャピチャ雨が跳ね返る音がするんだね!見てみて、水路にタニシがいるよー!わあ、葉っぱが流れてきた!自然と仲良くなりながら五感をフル稼働して色んなことを学びます。
また晴れた日の酒造の裏山の森は大冒険のステージです。よもぎさん(年長クラス)の子供達は木登り、崖登り、全身で自然と戯れます。
しいのみさん(年少クラス)の子供達はその姿を見ながら、森や畑のお散歩を通して自然と柔らかく親しむことから始まり数年後には逞しい姿を見せてくれるのです。
敷地を離れて活動もします。のうえんこえるさんの畑では、枝豆の苗を植えたりたっぷりの土付きニンジンを収穫させてもらい、土にも栄養があることを教わりました。お散歩途中には、道ばだになっている枇杷を皆んなでその場でペロリ。持ち帰ったらジャム作り!子供にとって遊びは学び、学びも遊び。もあなの日常は羨ましいくらいに、体が喜ぶご馳走に溢れています。そして夕方、酒造の敷地で見かける園帰りの子供のキラキラした眼差しは、親御さんだけでなく、ここに関わる周囲の大人をも元気にしてくれるのです。
川遊び
毎朝みんなで話し合いどこに行くかを決めています。
暑い日は川。
今日は、鯛、ザリガニ、マグロ、サメが釣れるかもと盛り上がり出発!
雨の日は迷わず水たまりにズブズブ入ります。
制作の日(バブルアート)
シャボン玉水と絵の具を混ぜて吹いてみよう〜。
どんなものが出来るかな。
『みてーケーキ』
『いや、お尻だよ』
『おばけみたーい』
と、思い浮かぶものはみんな違っていました。
琵琶収穫
散歩道になっている枇杷を収穫。その場でみんなで皮をむいて食べたり、園に帰ってジャム作り。冷凍もして今度のおやつのフォッカチャにのせて食べよう!
たけのこ堀り
筍の時期はほぼ毎日掘りたいという子供達。
隣接するテニスクラブの職員さんも筍を見つけてはあったよ!掘りにおいでー!と一緒に探してくれます。
畑の活動
畑に枝豆の苗を植えてきました。
子どもにとっては畑仕事というよりこれも土遊び。学びも遊びです。
のうえんこえるさん
こえるさんの畑を見学。
まずはニンジン収穫。土がついていても気にしない。
土にも栄養があることを教わりました。
『ニンジンのかたちおもしろい』種の採取もしました。
園に帰って調理。
食べる前にに上がった湯気に大歓声。
『ゆげニンジンのあじがするよー』 『おいしいねー』
と実際のニンジンよりも想像力がふくらみます。
本物のニンジンもおいしくいただきました。
じゃがいも掘り
全員でジャガイモ掘りに。
大量に収穫出来ました!また後日
芋掘りをさせてくれたおじさんを招いてジャガイモパーティをします。
もあなの食育
こうして、日々旬を五感で感じたり、モキチグリーンマーケットの有機野菜を使ったお昼ご飯を食べて子供達は育っていきます。

関山 隆一 (せきやま りゅういち)
1971年神奈川県生まれ。
1998年ニュージーランドに渡り国立公園にて現地ガイドとして働く。その後パタゴニア日本支社を経由し、2004年に帰国後アウトドアオペレーターの事業を立ち上げ、2007年NPOもあなキッズ自然楽校設立(2009年法人化)。
森のようちえんや自然体験活動を通して、長期的な子育て支援環境の確立及び地域に根差した実践を行っている。現在、NPO法人森のようちえん全国ネットワーク連盟 理事として日本の森のようちえんの普及活動に力を注ぐ。