メタセコイア
熊澤酒造の入り口のアーチをくぐると大きな存在にふわっと守られているような気がして、不思議と安心する。そんな感覚を抱かせるシンボルツリー、メタセコイア。晴れの日は樹の下に自然と人々が集まりひとときを過ごす、そんな光景が広がるとはこの樹が来た当初は想像が出来ませんでした。あれから25年。はじめは枯木のようで、ひ弱そうで、今よりだいぶ小さかったこの樹。当時のクレーンで運ばれる写真が出てきたけれど、思わず「大丈夫?」と心配になってしまう。それがこんなにも成長してシンボルツリーとしてこの地に根を張っているのだから、自然の流れというものはたいそうなものだとこの樹自身が告げているようです。実はこの樹はVol.1でご紹介した船平茂生さんとまだ出会う前に植樹したもの。その後庭を試行錯誤しているうちに船平さんと出会い、少しづつ庭を造りかえていくうちに、メタセコイアをシンボルツリーにしていこうということになったのです。
日中は光の陰影をつくり出し、夜にはライトアップされ独特の空気感を観せてくれるこの樹の25年の歳月は、安心感としてそこにあり続けています。11月頃に赤茶色に紅葉したあと、すっかり葉を落として枝ばかりになった姿を心配して下さるお客様もおられます。でも大丈夫、次の春の芽吹きを楽しみに待つことに致しましょう。それだけこの樹がシンボルツリーとして、皆の眼に留まっているのかと思うと嬉しい限りです。
熊澤酒造の庭には中心にメタセコイアがあり、その周りにも沢山の樹や花がほころんでいます。百日紅(サルスベリ)は8月にピンクの花をつけ、柘榴(ザクロ)の花は7月頃、果実は9月~11月に、花梨(カリン)の花は4月頃、果実は10月~11月に熟します。25年前には無かった葉ずれの音や梢から漏れる光のダンス。季節ごとに咲く花や実の色彩と溶け合う人々の笑い声。これが当たり前になるなんて、何と素敵なことでしょうか。ここを訪れて樹の下に集ってくださった方たちは、すでに未来に伝えるシンボルツリーの下で輪になって愉しむ景色の一員であるのだ、ということを感じていただければと思います。