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庭のこと

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仕込みタンクの蓋

昨年末、天青へと続く石畳の小道にウィスキーの醗酵室ができました。このガラス張りの一室の側面は年季の入った木の板で囲われているのですが、こちらは以前は醸造で使われていた仕込み用のタンクの蓋の部分を再利用しています。

この蓋も、熊澤得意の転用のまた転用。通路の壁となり、レストランのテーブルとなり、あらゆる変化を繰り返して、今この場所で落ち着いています。この蓋の醸す風合は長い年月が作り上げたものなので、そこに重なる時間と庭の変遷とが綾織のように重なり合い、この場所にグッと趣を加えてくれています。新しい素材だけで成り立った場所では、この重厚感を感じる事は難しいのかもしれません。

風雨に晒されたコンクリートの耐久性は約50年といいますが、天然の木はちゃんと特性を生かして手入れをしてゆけば1000年も持つと言われています。デジタルデータではやはり約50年の耐久性に対し、和紙に墨で書いた巻物は環境が揃えば何千年と残っています。その維持する力、生命力は、人間が生み出すものでは足元にもおよびません。そんな素材が大好きで、尊敬の念とともにこの庭に生かしています。現在あるものと、年月が生んだ耐久力のあるものとを組み合わせて出来上がる景色から私たちは豊かな土地の滋味を知るのかもしれません。

この小道は季節ごとに表情を変えていきます。これからこの醗酵室が、春には蔵の壁づたいに咲くまっ白な浪花薔薇(ナニワイバラ)の横で、梅雨の頃には可憐に咲く柏葉紫陽花(カシワバアジサイ)とともに、夏には真っ赤な山桃の実に上がる歓声を聞きながら、この庭の風景のひとつになっていく姿を楽しみにしたいと思います。

 

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