椅子
人と椅子との歴史はわたしたちの人生よりもずっとずっと長い。
古くは権力の象徴として王様だけが腰を下ろせた格式高い芸術品は、長い月日を経て今やわたしたちの暮らしにとって随分と身近な存在になりました。
okeba gallery&shop(okeba)の店内には作品や古道具たちに混ざっていろんな形の古い椅子たちが見え隠れしています。誰が座るでもなく店内に散りばめられた古い椅子、今回はどこからともなくokebaに集まってくる椅子たちをちょこっとご紹介します。
大の椅子好きでお馴染み蔵元茂吉のお陰で、気づけば世界中から随分たくさん集まってきた椅子たちは、お店のリニューアルや修理の関係で時々こうしてokebaへとやってきます。ここにある椅子たちはみんな、時代も国籍もバックグラウンドもさまざま。けれどそんな個性豊かなチグハグたちが、不思議と調和を生みながら馴染んでいくのが面白いところなのです。
このほかにも茂吉の趣味のコレクションに入りきらなくなった珍しい椅子が流れ着くこともしばしば。
ここに集まる椅子たちをみていると、椅子というのはただ腰掛けるための道具ではなく、それ自体が芸術であり歴史なのだと気付かされます。
たとえ古くなっても、いつか座れなくなっても、何てことないその場所に好きな椅子を置くだけで、不思議とそこが居心地のよい空間になったりするものです。
きっと椅子も私たちと同じように、自分にぴったりの居場所を求めて旅をしているのかもしれない。そんな旅の途中で人と古道具は時代を、そして国境を越えて出会うべくして巡りあうのではないか、と思うのです。
okebaはそうやって道具たちが巡りめぐってたどり着く終着点のようで、また新しい持ち主と出会う始発点のような、いつだってものを大切にする循環と縁を結ぶ場所でありたいと願います。
熊澤酒造には椅子の数だけ物語があって、これからも使う人の数だけライフスタイルが生まれていくのでしょう。
そして今日もまた、茂吉は椅子探しの旅に出る。
チャーチチェア/イギリス 1930年代
100年近く前にイギリスの教会で使われていた椅子。
聖書を入れるための収納がついているものもあり、教会の様式にあわせた繊細な曲線が美しい。きっと長い間、そこを訪れる人々の喜びや悲しみ、祈りに寄り添ってきた歴史の染み込んだ椅子だ。
主にモキチフーズガーデンで、修理を重ねながら大切に使われ、いくつかのお店では現役でも活躍中。
インダストリアルチェア/オランダ 1950年前後
世界大戦前後の激動の時代、オランダの工作所で使われていた椅子。工場の作業用椅子のため、職人の身長や作業台の高さに合わせて調節と回転ができる機能美、工業用ならではの重厚感が特徴。
その工場ではいったい何を製造していたんだろう?
と想像するとなんだかわくわくする。
熊澤では各店のバーカウンターで活躍していた。
スクールチェア/フィンランド 1950年代
現地の高校で使用されていた学用椅子。
スタッキングができる実用性がさすが学用品ならでは。
使い古されてはいるけれど、学生の学びと成長を支えた木製の力持ちは座面が広く荷物置きにもぴったりで、ミニマルながらどこかかわいらしさが垣間見える。モキチトラットリアでも長く使われ、かなり味わい深くなっているが、今ではもう手に入りにくくなった希少な椅子だ。