湘南スパークリング物語
日本酒はどうも苦手です。そんな女性の方からも、シュワシュワしていてフルーティで飲みやすい!と人気の高い湘南スパークリング。湘南の海を思わせるブルーのラベルが爽やかな飲み口にぴったりのお酒です。
このスパークリングシリーズは、現在の醸造責任者 藤代尚太がまだ駆け出しの蔵人だった2000年に、国の研修機関で試験醸造した際の経験から生まれました。藤代は酒を造る工程途中の酒母の華やかでフルーティな香りが好きだったと言います。そしてこれをそのままお酒にできないかと考えたのです。(大きなタンクで仕込んでモロミというどぶろくのような状態になる前の、小さなタンクで酵母菌を育てる工程を酒母造りと言う。この段階ではアルコール度数も10%前後と低い。)そのお酒になる前の、ブクブクと醗酵し始めたシードルのような甘酸っぱい味わいの状態で皆に飲んでもらえないかと考えた藤代は、そこから蔵元に何度もチャレンジしたいと直談判。そうして2003年に熊澤酒造でも試験醸造が開始されたのです。名前は自ら「さざなみ」と命名。いつもは寡黙で静かな男が、内なる情熱を燃やして始まったこのチャレンジが、その後の*註1蔵人チャレンジへと繋がっていったのです。
「さざなみ」は当初小さなタンクで少量を仕込み、直営レストランのみでの提供でした。酒造りのシーズンが終わってから仕込むため夏季限定でしたが、レストランでの評判は上々で2012年には50本まで生産量を増やしていました。あくまで熊澤の直営店限定商品でしたが、東京の酒問屋さんからフレンチやイタリアンの店に食前酒として提供したいと熱烈なラブコールをいただき、その後通年商品となりました。また瓶詰めでも販売して欲しいという声が次第に大きくなり、2017年に「湘南スパークリング」と 改名し瓶での販売が開始されたのです。
今では敷地内の梅を使った梅バージョン、小田原の片浦地区で採れるレモンを使った片浦レモンバージョン、ほんのりピンク色の桜バージョンや冬限定にごりバージョンとシリーズ化し、季節を彩る人気の主力商品となっています。一人の蔵人が理想の味を求めて挑んだチャレンジが花開いた湘南スパークリングストーリー。グラスに注ぐと現れる泡と香りを楽しむ時、そのストーリーを思い出していただけたら嬉しいです。そしてこれからも私たちは新しいチャレンジを実現し、未来に繋いでいきたいと思っています。
*註1 年に一回、若手蔵人が自分の造りたい酒をプレゼンし、その勝者に小タンク1仕込み分だけ責任醸造させる取り組み。できたお酒は春の蔵元フェスティバルでお披露目されています。
日本酒醸造責任者 藤代 尚太 (ふじしろ しょうた)
1997年東京農業大学醸造学部卒で入社。以来、25年日本酒醸造に従事。祖父の代まで造り酒屋を営む家系に生まれる。物静かで温和、誠実な人柄で、酒造会社の屋台骨を支える存在。ただし、ある一定量以上の日本酒が入るとフジシロはフジクロに変身し最強の暴君となる。出勤は愛車のハーレーで。